土曜日が好き

土曜日が好きなので

チミたちはどう生きるか②

どうして僕 いつもひとりなんだろ
ここじゃないどこかへ行きたかった


ヨペル「ちょっと信じられないですけど、どうしておじさんになった僕がここにいるんですか」


おじさん「ヨペル君、未来から来たと言ってもまだ僕は25だ。おじさん呼ばわりはやめてくれないか」


ヨペル「それはすみません。でも、なんのために、わざわざ女性になりすまして僕に会いに来たんですか」


おじさん「端的に言うとそれは、君が一人ぼっちだからだよ。僕は君の孤独を終わらせに、やって来たわけさ」


ヨペル「かっこいいこと言いますね」


おじさん「ヨペル君、君はまだ知らないんだ。これから君を襲う本当の孤独を」


ヨペル「今でも十分苦しいのに、まだ孤独になっていくんですか。それは嫌だな、僕、なんにも悪いことしてないのに」


おじさん「うん。もう死んでしまいたいと思う直前まで行くくらい、君の孤独はますます深くなっていく。僕はずいぶん苦しんだ。君には僕のような辛さは味わって欲しくないんだ」


ヨペル「はぁ…」


おじさん「でも、どうにか深い孤独を乗り越えて、幸福を掴めた。今の僕だからこそ君に伝えられることがあると思ってね、それを話しに来たんだ」


ヨペル「うーん、まだ信じられてないんですけど、ひとまずそういうことにしましょう。でも多分無駄です、どれだけ頑張っても僕に彼女はできないと思いますよ」


おじさん「どうして、そう思うんだい」


ヨペル「おじさん、あなたが未来の僕だというなら分かるでしょう。僕は普通の人間として生きるには欠落が多すぎる、そしてその1つ1つが複雑に絡み合っていて、とてもじゃないが処理できない。とんでもなく不器用で何をやらせてもダメなんですよ。特に、恋愛をする時に必要なコミュニケーション力に関しては一切持ち合わせていないんです」


おじさん「そうだね。分かるよ、僕もずっと同じ悩みを抱えて生きてきたからね。君はずっと自分自身の情けなさを憂いながら、必死にもがいている。周りなんて気にするなと言う人もいるが、そんな言説はいかにも恵まれている奴らが考えそうな綺麗事でしかない。君には君の幸せへ向かうペースがあると自分に言い聞かせても、テレビをつければ恋愛ドラマがやっているし、街を歩けばカップルが歩いている。それを見たくなくて、どこかのお店に逃げ込めば有線でラブソングがかかっていたりする。逃げられるものではない。人間は恋愛が大好きなんだ。そして残念ながら、恋愛が出来なければ、人として何かが欠けていると思ってしまうような風潮からも、逃げることはできない。恋愛至上主義の世の中は既に完成しちゃっているのだよ。その風潮に抗うにはかなりの体力と精神力が必要だ。抵抗するエネルギーは無いと言うのなら、僕らは大人しく彼女を作って生きていくしかない」


ヨペル「未来でも、未だに恋愛主義なんですね。多様性が大事って言われてても、そんなにうまいこと世の中は変わらないものですね」


おじさん「そうだね。でも、君が苦しみを抱えるのは、世の中の風潮が君を追い込んだ結果と言うこともできるが、本質は別にある。君の抱えなければならない本当の問題は、世間ではなく、君自身の心が引き起こしている問題なんだ」


ヨペル「まあそうなんだろうけど、気持ちの問題なんてどうしようもなくないですか?そんな簡単に人の心は変わりませんよ」


おじさん「ヨペルくん、心が苦しい時に1番するべきことは何だと思う?それはね、その心がどうしてそんなに苦しいのか徹底的に分析することだよ」


ヨペル「分析ですか。そんな難しそうなこと僕にできるのかな」


おじさん「ヨペルくんの生きている時代では、孤独な心を分析する学問がまだ進んでいないんだが、この先の未来では、多くの学者がそれに向き合い、日々新しい研究結果が発表されている。そして何よりも驚くべきことに、その学問の第一人者となるのは、紛れもなくヨペルくん、君なんだ」


ヨペル「え!僕が?!まだ発見されてない新しい学問を生み出すなんて、そんなバカな…なんと言う学問なんですか?」


おじさん「さよなら研究という学術体系だ」


ヨペル「……」


おじさん「そして、今僕は、さよなら研究で発見された様々な知見を組み込んだコントを作っている」


ヨペル「……」





第三話へ続く